父が帰ってこない日常になれたものの、
たまに帰ってきては、母との壮絶な言い争いを昼夜問わず繰り広げられた。
とにかく激しい。激高型の二人なので外に聞こえていようが
自制心より感情が先立って収拾つかない。
私の家はちょうど大通りに面していて、通学路にもなっていた。
駄菓子屋さんに行く通り道にもなっていたので、ふたりの喧嘩が始まると
同じ校区の生徒が通らないかビクビクしながら窓の外をみることが
お決まりの行動パターンになっていた。
校区内の生徒が通ると恥ずかしいが、
同級生が通るともっと恥ずかしく、
同じクラスの同級生が通ると、死にたい。と思うほど恥ずかしかった。
明日どんな顔して登校したらいいんだろうか?
次の日、噂になってるんじゃないか?
そのことで頭がいっぱいになり、勉強も集中できなかった。
家族と出かけたらもっと恥ずかしかった。
母の余計な一言に「カッ」となった父が、母の肩を押した勢いで
母がバランスを崩し、倒れ、自転車置き場の自転車が将棋倒しになったことも。
近くにいたヤンキー風のお兄さんが母を起こしてくれたが、倒れた自転車を
起こしながら、好奇な目で見られていることが背中越しにも伝わる。
突き刺さる哀れみの視線が恥ずかしかった。
エホバの証人は食事前、寝る前、祈りをするのが基本だった。
食事の前に手を合わせて合掌することは、エホバの証人では禁止されていた。
合掌は許されていないので、学校の給食の時間も苦痛だ。
食事の前に、手を合わせ、合掌する時間になると
みんなにバレないように、ごまかすので必死だった。
エホバの証人は、代わりに手を合わせて左右の指と指をからませ、祈りのポーズをし、目を閉じてブツブツ祈る。
外食しても母はお祈りをはじめる。
当時、外食は贅沢だったので祈りも(神に感謝の弁も)長くなる。
当然私たち子どもにも祈ってから食事をするように躾けられていたので母が代表で祈り、目を閉じ、祈り、最後に「偉大なる神、唯一ひとりの神、エホバの美しいみ名と共に アーメン」といって祈りをしめるのだが、神がエホバということにこだわるので、最後のセリフが色々と足されて長くなる。
この姿を知り合いに見られたらどうしようと、恥ずかった。
久しぶりに帰って来た父もこの姿をみて(子どもにも強要するので父以外全員)
ドン引きしていた。
久しぶりに帰れば帰るほど、どんどん変わっていく様は異様だったに違いない。
たまにふらっと帰って来る父を私は父というより、知人くらいの感覚になっていた。
エホバの勉強には矛盾点があるのは頭の片隅にありつつ、
ムチの恐怖の方が勝り、従わざるを得ない状況下にあった。
そのうち、ムチをされるくらいなら、本心(矛盾点)を隠すようになっていく。
そうやって私の心まで蝕まれ、本心、考える力、自由意志を削がれ、
母親からのムチという人権侵害も当然のように受け入れるようになり
(家に父がいないので止める人がいない)
祈りも習慣化されるとするのが当たり前になっていき、
そのうち私も祈りの度に
この瞬間湯沸かし器の二人がどうか穏やかに仲良く修復してくれること、
父母が笑顔になり、幸せな家族になれること、
父母の状況改善とよい方向に向かうように導いてください
父が戻って来て家族全員が幸せに穏やかに暮らせるようにと
勉強しはじめたエホバに必死に祈るようになった。
だが、祈っても改善されるどころか、父と母の仲はどんどん状況が悪化していった。
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