ある家族のノンフィクション手記

親兄弟は選べない。家族という病

許せない母、気持ちが離れていく父。

母が聖書を学び始めたのが、「エホバの証人」というカルト宗教で

研究生という位置づけだった。

母が気に入った言葉あるいは教義というのが

①ハルマゲドンが来て、生きのび楽園に行くこと。

②聖書を学ぶと幸せな家庭を築けると言われたこと

③配偶者がいるのに不貞行為を行うことは罪であること

(自分を肯定し、父を批難することを意味する)

だと思う。これこそが家族を取り戻す教義に映ったのだと思う。

 

世界のいたるところで、犯罪、暴力、飢饉、病気、戦争、環境汚染、家庭不和など

人々を悩ます苦難のすべては悪魔サタンの仕業で、サタンがこの地球上の人々を誘惑する。なぜならハルマゲドンが来たら、サタンとエホバの教えを守らなかった者は滅びる。だからサタンが躍起になっている。と。

この世でうまくいかないこと、すべてを悪の存在とし、サタンのせいにする。

1か100か。

何かのせいにできるというところも、肌にあったのだ。

元々人のせい、世の中のせいにして、自分を顧みたり、変えようとしてこなかった母のような人間ほど「何かのせい」にできるというのはよかったのだと思う。

 

エホバの証人の教義は、あらゆる自由を奪う。

母は元来真面目で娯楽には全く興味を示さないタイプで

不自由な生活を元々身につけていた人だった。

だから厳しすぎる教義に不満を持つことも、苦に思うことはなかったし

してはいけないことが多い=すなわちしていいことが少ない

思考停止している母にとって

選択肢が少なくて、色々複雑に考えなくていいことが母の肌にあっていたのだと思う。

元々友達がいないので「世の人」とかかわりを持たないことになんの未練もなかった。

※世の人というのは、「エホバの証人」以外の人を指す。

 

特に③に関しては、父に罪を償わせたい。

聖書の引用を見せて過去の過ちを認めさせて、謝らせたい。改心させたいと躍起になっていた。

話を切り出すタイミングを完全に間違えてしまっていた。

物事には順序があるのだが、直球すぎる母の性格は戦略を考えずに

②の説明に入り、過去の出来事を思い出しては父をなじり、責めたてた。

もちろん、過去の件に関しては許せない気持ちがあるのはわかるが

母は事あるごとに悲劇のヒロインになりたがる傾向があった。

同じことを何度も思い出しては蒸し返す癖があって、不幸な自分に酔って泣く。

かわいそうな自分に酔っていて、常に同情されたい人だった。

水に流そうという努力をしようとしてこなかった。

母は過去のことを夜な夜な持ち出しては同じ話をし、ねちねち蒸し返すようなところがあった。

当然のことながら、感情を抑えれないことが仇となり、離婚を考える引き金となっていた。

父にはカルト宗教に狂った妻にしか映らず、夫婦仲に亀裂が入り始めた。

中国地方から関西へ戻って来てからは、父は普通に家と会社の往復する生活だったが

仕事から帰ってきては、過去のことをネチネチほじくり返され、

泣いて責められることが苦痛になっていった。

家に帰る時間がだんだんと遅くなっていき、終電で帰るのが当たり前になった。

深夜に帰ってきても、夜な夜な口喧嘩がはじまり、グラスや皿を投げつけて

激しい喧嘩を繰り返した。

両親の喧嘩している声が嫌でも聞こえてくるので目が覚めてしまい

怖くて怖くて、不安で、毎晩布団の中でひとり、シクシク泣いていた。

殺人事件になったらどうしよう。本当に怖かった。

喧嘩が治まり静まり返ったことを確認してから眠りにつく生活が続いた。

不思議なことに、弟二人は両親の激しい罵声が家中に響いても全く気にせず大いびきをかいて寝ていた。これは男女の違いだろうか?

そのせいか、私は日中の授業中はいつも眠かった。

 

神経をすり減らすような夜にも慣れっこになっていったが

父は母に愛想を尽かし、外に癒しを求めるようになるのに時間はかからなかった。

職場の女性と恋仲になったのだ。

母は聖書の引用を読み聞かせることで父に反省させ、気持ちを取り戻せると思っていたようだが、押し付けられていい気をするわけがなく、反対に取り返しのつかない状況になっていく。

 

…つづく

 

 

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